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高松高等裁判所 昭和29年(ネ)471号 判決 1955年6月30日

控訴人(原告) 大谷八助

被控訴人(被告) 川島税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、原判決を取消す、被控訴人が昭和二十七年四月三十日附をもつて、控訴人の昭和二十六年度分所得額金三十一万九千円、その税額金四万三千百円と更正するとした決定は、これを取消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決を求め。被控訴代理人は、控訴を棄却する旨の判決を求めた。

当事者双方事実上の主張、証拠は、孰れも原判決摘示の事実、証拠の提出及び援用、認否と同じであるから茲にこれを引用する。

理由

被控訴人が昭和二十七年四月三十日附をもつて、控訴人のした同人の昭和二十六年度所得額を金十三万三千六百円とする旨の確定申告について、該所得額を金三十一万九千円と更正する旨決定したこと、控訴人が適法に右更正決定の再調査を請求し及びそれが原処分を正当とする旨をもつて棄却されると更らに高松国税局長に審査請求をしたこと及び同国税局長が昭和二十八年二月二日附をもつて、その審査請求は理由がないとして棄却する旨の決定をし、かつその頃控訴人に対しその旨通知したことは、孰れも当事者間において争いがない(そして本訴が所得税法第五十一条第二項所定期間内である同年四月三十日提起されたこと記録上明らかである)。

右被控訴人のした更正決定につき、違法の有無を調査するに、控訴人が肩書地で食料品、雑貨、薪炭等の販売(小売)営業をする者であることは当事者間に争いがなく、右の場所が国鉄徳島本線牛島駅前に当り、又薪炭等も販売していること及び数軒の貸家を有しておること、村議会議員(右昭和二十六年当時)の公職に在るものであることは控訴人において明らかに争はず又争うものと認められる資料も存しないから自白したものと看做すべきである。それ故控訴人は事業(右営業)(所得税法九条一項4)の外不動産(貸家)所得及び給与(村議会議員)所得(法九条一項3及び5)を有する筋合である。

第一、事業所得(総収入金額から必要経費を控除したもの)について、

(一)  収入、(1)雑収入はその額が原判決添付別表(以下単に別表とのみ称する)一号の収入欄<4>記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(2)、右営業収入(商品販売による差益)は、当事者双方の立証に直ちにその額を確認し得られるものがない、けれども当該年度の商品仕入並びに期末商品棚卸高が別表一号の収入欄<2>の(ロ)並びに(ハ)記載のとおりであることの当事者間に争いがないこと、又期首商品棚卸高(前年繰越)が成立に争いのない乙第二号証当審証人井上清澄の証言、弁論の全趣旨を綜合すると、昭和二十五年期首商品棚卸高、一七二、九一〇円(仕入価)であつたことが認められるとともに右認定の如く二ケ年後の昭和二十六年期末商品棚卸高が五三九、九五四円(仕入価)であるから平均一ケ年の増加額一八三、五二二円であることを窺知できるので昭和二十六年度期首商品棚卸高は本判決添付原判決の別表一号訂正部分表収入欄<2>の(イ)に示す三五六、四三二円(仕入価)と推計するを相当とする。控訴人提出援用の証拠に右認定を覆して主張の如き棚卸高であつたことの認められるものがない。だから右(イ)及び(ロ)の合計二六四四、六二五円から(ハ)の五三九、九五四円を差引いた二、一〇四、六七一円が右別表一号の訂正部分表収入欄<2>の(ニ)の当該年間販売商品の仕入原価(総計額)となる計算であるが控訴人においてより多額を主張するから該仕入原価は、右控訴人主張の額二、二八八、一九三円であると做すべきである。

しかして右仕入原価の内訳が原判決添附別表四号記載の如き商品及び額であることは当事者間に争いがないから該商品の販売による差益は、

(イ)、生菓子及びパン二五%、清涼飲料水二五%、豆腐油揚二二%の差益があること当事者間に争いがない。

(ロ)、成立に争いのない乙第二十二号証原審証人須川清の証言により成立を認められる乙第二十四号証並びに同証言を綜合すると、醤油は四斗樽が三斗八升入りであるところ控訴人において平均二千円(一、六〇〇円、二、〇〇〇円、二、四〇〇円の三種)で仕入れていた計算となること、普通一般に一升六十五円平均で小売されていることが認められるので計算上差益率二六%以上となるからその範囲内なる一九%とする被控訴人主張を採用すべきである、従つて同種のものと認むべき味噌も亦同率と做すべきである。

(ハ)、前示乙第二十四号証及び須川証人の証言、原審証人生田栄太郎の証言を綜合すると、青果物の小売は、普通一般に二割―三割四分の利を得ていることを窺知できるので平均差益率二五%と言うべきである、右証言中この認定に牴触する部分は信用できない。

(ニ)、被控訴人の立証に繊維品につきその差益がその主張のとおりであることの認められるものがないので差益率は控訴人の争はない限度たる一五%と言う外はない。

(ホ)、原審証人平島富雄の証言により成立を認められる乙第二十五号証並びに同証言を綜合すると、日用諸雑貨の小売に約三〇%の差益があるものであることを窺知することができるに徴し被控訴人主張の如く雑貨の差益率は二八%と做すを相当とする、この認定に反する原審証人山下忠雄の証言は措信しない。

(ヘ)、原審証人井上清澄の証言により成立を認められる乙第二十三号証並びに同証言によると、高松国税局で同局及び管下税務署において、帳簿完備したものの実績を調査集計したものによる昭和二十七年度小売商の平均差益は木炭一五%、酢被控訴人主張の一九%(以上の三五%である)下駄二六%、ゴム製品一八%、化粧品二五%、茶二七%、仏具二五%以上、食品A二〇%及びB一九%以上、干菓子二四%、乾物二一%、蔬菜(食料品、青物)二〇%であり昭和二十六年も差異がなかつたことを認められるので控訴人の右各商品に対する差益も亦同率と做すべきを相当とする、この認定に反する乙第二十五号証の記載部分や前示平島証人及び原審証人中賀白の証言部分(該証言に現われる農協組合の目的たる業務及びそれ以外の業務が農民福祉のため副業的に扱われるもので手数料程度の利を得るに過ぎず一般営業者と異なるものであることにより)は信用できない、又控訴人の立証によるも乙第二十三号証を証拠とするを妨げる特別な事情を窺われないので証拠力がないとの主張も採用できない。

(ト)、右(ヘ)の認定により商品の種類からみて、薪類、煉炭、タドンは木炭同率の一五%、鼻緒は下駄同率の二六%、人形は仏具同率の二五%、足袋は雑貨同率の二八%であろうが被控訴人主張限度二五%の差益を得られるものと言うを相当と解する。

(チ)、被控訴人の立証に主張の如き割合の脱漏推定を窺はれるものがないので控訴人において争はない一二%の範囲において脱漏推定を認められるべき筋合である。

そうすると以上認定の各差益率による各商品別の差益額は、本判決添付の原判決添付別表四号の訂正部分表控訴審認定欄記載のとおりでありその合計四六五、一八七円となる。

(3)、従つて叙上(2)の収入四六五、一八七円及び(1)の雑収入四、五〇〇円合計四六九、六八七円(前示別表一号の訂正部分表収入欄<5>)が当該年度の収入である(叙上四六九、六八七円と販売した商品の仕入原価二、二八八、一九三円並びに後記貸家及び給与所得二七、八八六円を合計すると、二、七八五、七六六円となるので成立に争いのない乙第一号証記載控訴人の確定申告の収入額二、七八七、二四六円にも近似し右推計の正当なことが裏付けられる)。

(二)  必要経費、前示別表一号の必要経費欄記載の減価償却費を除く爾余の各費目及び額については当事者間に争いがなく、減価償却費が被控訴人主張三、一五二円以上であるとする控訴人の主張はこれを認め得る証拠がないから右三、一五二円と認定するの外はない。そうすると必要経費は同表のとおり合計一四四、八二七円となる。

(三)  故に(一)の収入から(二)の必要経費を差引いた前示別表一号の訂正部分表記載の三二四、八六〇円が事業所得となる。

第二、不動産所得並びに給与所得について、

該両所得の額が前示別表一号の争のない所得欄記載のとおりであることは当事者間に争いがないから合計二七、八八六円となる。

それ故総所得は、前示別表一号訂正部分表記載のとおり三五二、七四六円となる筋合である、控訴人全立証によるもこの認定を動かすに足らない。

そうすると、被控訴人が右範囲内で冒頭認定の如く控訴人の昭和二十六年度所得を三十一万九千円と更正したことに何等違法存しないと言うべきであるから爾余の所得算出方法につき判断するまでもなく控訴人の請求を棄却した原判決は相当と言うべきである、よつて民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 前田寛 太田元 岩口守夫)

(別表省略)

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